隠者のちょっと横道。。無駄話。。。? 〜和食器webショップ〜菖蒲の隠者
お茶の思い出。。
2010 07/02 (FRI)
弊社は元々は『業務用和食器』の販売をメインに商いをしていた会社です。。
そのため、主なお取引先は、ホテル・旅館・料亭・割烹、などが中心で、その中で商品を選んで頂く方は和食の料理長・板前さんが中心となります。
結果、和食の板前さんとのお付き合いが多くなるのですが、和食の職人の世界というのは、特に極端なほどに縦社会の世界であり、一流の親方になればなるほど、その弟子の数も多く、弟子にとって親方は神様のような存在ともなる訳です。。

そんな縦社会のトップに立つ親方達とお付き合いをしなければいけない業界に足を踏み入れたばかりの、まだかけ出しの営業マンだった頃の『お茶』にまつわる思い出は、当時、全国各県に最低1施設はあった大規模公共施設の総料理長として君臨されていた親方の元を、初めて一人で訪問した時の思い出です。。

全国チェーンの施設の頂点に立つ親方ですので、そのお弟子さんの数も半端ではない数で、その親方がひとたび厨房に入るだけで、周りの弟子達にはピリピリとした緊張感がみなぎり、厨房の空気が一変してしまうほどの威厳と迫力をもった親方でしたが、かけ出しでまだ右も左も分からないような隠者にとって、そんな雲の上の存在のような親方の元を初めて一人で訪問するわけですから、さすがに当日は胃が痛くなるような緊張感を感じながらの訪問でした。

料理長室のドアを叩き招き入れられた席に着き、テーブルの上に目をやると、テーブルの隅の方にはお茶を入れるためのセット、ポットと急須、湯呑と茶托、そして茶筒とおしぼりなどが置かれていました。
それは特に仰々しいものでもなく、一般家庭でも食卓に置いてあるような、ごくごく日常的に目にするお茶のセットでしたが、緊張で硬直した隠者を前に料理長自らの手でお茶を入れて下さいました。

お茶の心得も知識もなく、お茶の入れ方など『急須に茶葉を入れて、そのままポットのお湯を急須に注ぐだけ』としか思っていなかった隠者の目の前で、料理長はポットのお湯を急須ではなく湯呑に注ぎ、さらにお湯を注いだままの湯呑をしばらくそのまま放置して、隠者に話しかけて来られました・・
緊張で何を話したら良いかさえも思い浮かばない用な半パニック状態のうえに、さらに当時の隠者には料理長の行動が『湯呑にお湯を入れたままにして、いったい何をするつもりなのだろう??。。』『冷まして薬でも飲むのだろうか??。。』『もしかして、お茶を入れる仕草は、ポーズだけ??。。』などと、なおさら頭の中は混乱でパニック状態になっていきました。

その後料理長は隠者に話しかけながら、時々お湯を入れた湯呑の胴の部分を掌で包みながらお湯の温度を確認し、ちょうど良い頃合いを見て湯呑のお湯を急須に移されました。

今にして思えば、客をもてなす心で、美味しいお茶を入れるために、ご本人にとってはただ当たり前のようにとられた料理長の作法だったのでしょうが、当時の何も知らなかった隠者にとっては、料理長のとった行動の意味が理解できず、ただただ混乱するだけでした。。(苦笑)
こういった訪問先では現在でもそうですが、殆どの場合は事務所、または喫茶などから『お茶』や『珈琲』などが運ばれてくる事が殆どで、主人自らが目の前でお茶を入れて下さることなどまずありません、ましてや、当時右も左も分からないペーペーの、門前払いを受けても仕方が無いような立場の隠者に対し、かたや料理界のトップに立つ御仁ですので、天と地ほどの差がある立場でしたが、そんな立場の違いなど関係なく『もてなしの心』でお茶を入れて下さったという事が後になって理解でき、あらためてその時の事が忘れられないありがたい思い出として、隠者の心の奥深くに今でも残っています。。。

その後もこの料理長の元を訪問する時には、いつも同じようにお茶を入れて下さいましたので、どのような客であっても同じように接されていたのだと思います。
また、事務所から運ばれてくるようなお茶も、おそらくは同じように丁寧に美味しいお茶を入れて下さっているものと思いますが、でも、主人自らが客の目の前で実際に少しの手間を掛けてお茶を入れてくださる姿を見ると、それだけでありがたさや美味しさなども何倍にも感じられるのだなと、客をもてなすという事の意味を、その料理長から少し教わった気がします。。

朝昼晩、そして仕事の合間など、日本人には日常的に欠かせない『お茶』であり、ペットボトルのお茶でも手軽にまた十分にのどを潤してはくれますが、時にはちょっと のんびりと家族や友人との会話を楽しみながら、美味しいお茶を入れて過ごすのも素敵な時間なのではないでしょうか。

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